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「桔平。私達は若くて、何が正しいのか、まだ分からない。もしかすると、一生分からないのかもしれん。だが、何が間違っているのか、間違っていないのか…それがきちんと分かるようになっていけば、道は開けるとは思わないか?」
粉雪の日。一つの言霊が、壮麗な音をたてて世界を強く押し拡げた。
そして、今。その世界が、輝き始める。
大賀さんが言っていることは、まだよく、分からない。尊い言葉を聞く時はいつもそうだ。けれど時が経てば、自分は今日のことを理解し、切ない幸福を感じて泣くだろう。
その予感だけで十分だった。
顔を上げた。大賀さんは、前を見ていた。涙を流した後はいつもそうであるように、頭はぼうっとしていた。
「どうして…俺は貴女に出会ったんだろう」
思わず零れた言葉に、大賀さんは俺の方を向いて飄々と答えた。
「おや。今度は随分と簡単なことを聞くんだな。人はいつも、出会うべき人間にしか出会わぬものだぞ」
「? よく…分からない」
「そうか? そうだなぁ……例えば、風邪をひいた時、体が自然と見つけるものって、あるだろう? 普段なら見向きもしないようなもの。それは、私の場合は氷菓だったり、私の祖父の場合は生姜湯だったりする。
お前も私も、前から同じ場所に存在していたのに、互いに気付かなかった。それは、その必要が無かったからだ。実際、お前は私を知らなかっただろう。」
「はい…」
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