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プロローグ
粉雪の日だった。
ガラスの破片のような氷晶が、呼吸と共に心を刻んでいた。
学校に着いても教室には向かわなかった。毎朝笑顔で「おはよう」と迎えてくれる教室の熱気に応えられる自信が無かったのだ。
何も無い場所を求めて、屋上に行き着いた。
そこに彼女は居た。
長い黒髪が、扉の軋んだ音に気づいて揺れ、降りかかる粉雪を遮るように翳されていた指が、優雅に流れて耳元の髪を押し上げた。
その指が降りるのと同じゆるやかさで、彼女は振り向いた。
その時の心境を、何と表したらいいだろう。
「少年」
身体に響く声だった。
俺は答えなかった。だが彼女はそれをまったく気にしない様子で、長いこと俺を見ていた。
感情の読みとれぬきりりとした面立ち。深い赤色の眼鏡の奥に輝く瞳。
「孤独に身を委ねるな」
その瞬間せり上がってきた痛みの理由を、あの時の俺はまだ知らない。
ただ、その一瞬だけ粉雪が綺羅星に見えた―――――そう、彼女には話した。
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