時の風穴

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 わたしはまず、あの日、最後に瑠璃を見た場所まで行くことにした。  あの日、わたしたちが遊んでいたのは河原。  ススキだらけの土手をおりていく。  もちろん、ここに何かの手がかりがあるとは思ってなかった。ただ、記憶のなかの瑠璃の姿を追っていただけだ。  ススキ野原をこえたとき、そこに人影があった。  背の高い男の人—— 「瑠璃?」  なぜ、そう思ったんだろう?  瑠璃が大人になって帰ってきた——そう思った。  ふりかえったその人は、まぎれもなく、瑠璃だ。  見間違うはずない。  それほどの美貌をほかに知らない。  でも、その姿は一瞬で、風に溶けるようにかききえた。 (なに……? 今の……?)  はっきり見たと思ったのに。  それとも、瑠璃に会いたいと思うあまり、幻影を見たのだろうか?  わたしは瑠璃が立っていたはずのところへ近づいていった。  大小の石がゴロゴロころがる河原。  そこに赤い石が落ちていた。  小さな小さな、赤い石。  でも、ただの石じゃない。  ひろいあげると金具がついていた。イヤリングだ。かなり古いみたいで、金具はさびている。  誰かがここに落としたのだろう。  あの日のことを思いだす。  あの日、河原で日がくれて、わたしと透夜は家に帰ろうとした。  でも、瑠璃は、もう少しここにいると言った。 「日が暮れると危ないよ。まっくらになるから」と、透夜はやっぱり反対する。 「もうちょっとだけだよ。透夜と夏帆ちゃんは帰っていいよ」  わたしは不安になって、たずねてみた。 「ほんとにすぐ帰るよね?」 「うん。バイバイ」 「じゃあ、また明日」 「またね」  それが、瑠璃を見た最後だ。  だから、川でおぼれたんじゃないかと、さんざん河原は捜索された。でも、瑠璃は見つからなかった。  ほんとは、瑠璃は別の場所に行きたかったんじゃないか——  わたしはずっと、そう思ってきた。  瑠璃はあの場所へ行くつもりだったんだと……。  やっぱり、あそこへ行くしかない。  わたしは赤い石のイヤリングを、デニムのポケットに入れた。河原をあがっていくと、目の前の道を自動車がよこぎっていった。  なんか、すごく高そうな黒い車だ。  まさか、この田舎でベンツだろうか?  一瞬だけど、なかに乗っている人が見えた。  運転してたのは五十さいくらいのスーツを着た男の人。  助手席に女の人がいた。  とても、きれいな女の人だ。  なんだか、瑠璃に似てる……? (はあ、ダメだ。今日、どうかしてるよ。瑠璃の幻があちこちに見える)  なつかしい思い出の場所に帰ってきたからかもしれない。そう思って、わたしは気をとりなおす。  あの場所へ行こう。  きっと、瑠璃が、わたしを呼んでるんだ……。
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