時の風穴

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「おまえ、何やってんだ!」  しかし、待っていたのは怒鳴り声。暗くてよくは見えないけど、瑠璃じゃない。 「誰?」  わたしが言うと、ため息が聞こえてくる。 「……透夜だよ」 「へえ。ひさしぶり」 「ひさしぶり、じゃないだろ。なんか見たようなやつが歩いてるなと思ったら、峠のほうに向かってくからさ。追ってきたら、このザマだ。まさか、自殺しようとしたの?」 「まさか! そんなわけないでしょ。崖になってるって思わなかったんだよ」  透夜はホッとしたようだ。 「そっか。ならいいけど。ここ、出よう。あぶないよ」  わたしはそっと崖の下をのぞいてみた。でも、あまりにも暗すぎる。ただの黒い穴にしか見えない。 「暗闇のなかでここを歩いてたら、みんな落ちちゃうよね……」 「ああ、そうだろうな。だから、近づいちゃいけないって言われてたんだ。よく見えないけど、けっこう深そうだし。落ちたら、あがってこれないんじゃないの?」  時間を越えるなんて、ただの伝説だったのか。  きっと、遊びにきた子どもが、何人もここで落ちて死んでしまったのだ。死体も見つからなくて、神隠しだなんて言われるようになったに違いない。 「……ここに、瑠璃がいるんだよ」  わたしは確信した。  あの夜、きっと、瑠璃は一人でここに来て、奥へ向かっていた。そして今のわたしのように、とつぜんの崖に気づかず、落下してしまったのだ。 「そう……かもしれないな。瑠璃はここに来たがってたし。あとで明かりやロープ持ってきて、調べてみよう」 「うん」  悲しいけど、それが真相なんだと思った。  やっぱり、瑠璃を殺したのは、わたしだ。わたしがここのことを教えなければ、瑠璃は……。  ところが、そのときだ。  とうとつに、透夜が「わッ」とさけんだ。  わたしたちは強い力で、崖下へつきおとされた——  落下しながら、一瞬、見えた。  さっきまで、わたしたちのいたところに立っている人を。  瑠璃? 瑠璃なの?  ちがう。似てるけど……すごく似てるけど、女の人だ。 (この人、わたしたちを殺そうと——?)  長い落下感。  今度こそ、死んじゃう!  そう思った。  すると——  誰かの手がわたしをつかんだ。  目をあけると、瑠璃がいた。  体が透きとおってる。 「……瑠璃?」  ——ごめんね。僕を殺したのは君じゃないよ。もう、自分を責めないで。  瑠璃がささやく。  風が巻きあがる。  わたしの体をつつみこんだ気がした。
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