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「失礼します」
気分も新たに足を踏み入れた。
そこに広がるのは、少女の実家の寝室よりは少しばかり狭い空間。そこに数十人の生徒が所狭しと押し込められている。
それはそれで驚きの光景だが、現状そんなことは問題ではなかった。
「ケケケ、このオーク学園に転校生だってよ。しかも女」
「どうせどこの学校でも相手にされなかったブスだろうよ」
「確かだわな、この時期にウチに転入だなんて」
少女に対して嘲るような声と、なめるような視線が注がれていたのだ。
人の思惑など単純なもの。自分だけの狭い空間に居座り、新たなる者には好奇の視線を向ける。自分より劣る部分を見つけてそれを攻撃する。もしくは逆手にとって自分を輝かせる為の道具にする。
それこそが集団に生きる者の、新参者に対する洗礼。少女はまさに、そのただ中に存在したのだ。
「あの、その……」
少女は戸惑い、その場に立ち尽くすだけだ。テンパったように瞼を閉じる。
映画や小説などで、転校生のマニュアルは覚えてきた。それでもこうしてそれに直面すると、どうしても手足が動かなくなる。
幻聴だろうか、なにも聞こえなくなった。……いや幻聴とは逆だ、宇宙空間に投げ出されたような沈黙状態。
それに堪えかねてゆっくりと瞼を開けた。聞こえない筈だと思った。……教室の誰もが声もなく、ただ呆然と視線を向けて、立ち尽くしているだけだから。
息も出来ぬ程の沈黙だけが、辺りを支配していた。
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