5人が本棚に入れています
本棚に追加
「チッ、拓未もゴン太も、マジになんじゃねーよ」
「遊びだろ遊び、本気で喧嘩なんかすっかよ」
「しかし俺は本気だぜ。本気であの子が好きになった」
「しかし拓未の野郎ムカつくよな。本牧レジェンドの特隊だからって、幅きかせすぎだろ」
こうして室内は一応の落ち着きを取り戻す。
ふーっと深呼吸して、室内を見回す少女。先程まで感じていた獣のような気配はどこにも感じられなかった。モヒカンを始めとする生徒も、こうして見れば普通の生徒だ。……むしろ実家の若衆の方が獣のような体格をしている。
全ては気持ちの持ちようなんだと思っていた。なにもかにもが新鮮で、同じくらい不安の対象だから。それに先程のお侍さんやナイト様のいる学園だ。礼節を重んじれば、必ず乗り越えられると信じていた。
「ありがとう御座いましたゴン太さん」
感謝の気持ちを込めて、再び頭を下げた。こうして教室内は普段と変わりない平和を取り戻す。
「訊いたかアムロ、電車。拙者に対してゴン太さんだと。武士としてこの上なき誉れだ」
「良いのですかゴン太殿、普段は『この羽織に身を包みしときは土方歳三と呼べ』って言ってるのに」
「確かにゴン太君が夢中になるのも分かるよ。サイコーにカワイイ、エリザベート様にも引けを取らない」
それでもざわめきは残ったまま。誰もが少女に興味を抱いていたのは確かだから。
こうして担任の杉田が仕切る中で自己紹介は終わった。
「じゃぁ、あなたの席はあそこ。分からないことは隣の若井さんに訊いてね」
杉田が指差すのは、ひとつだけ空いた真新しい机と椅子。
「近くでみるともっとかわいい」
「確かにかわいいね。……私には劣るけど」
「マジ惚れたっす」
「ボクの名はアムロ、よろしくお願いします」
「電車です」
「佐藤ゴン太。皆のものは土方とし……」
こうして歩き出す彼女に、賛辞の言葉が響き渡る。
「マリアちゃんね。私は春菜っていいます。よろしくね」
席に座った少女に、隣の女生徒が優しく微笑んだ。朗らかな笑顔の少しぽっちゃりした生徒だ。
「私はマリアです。よろしくお願いいたします」
つられて少女も笑った。
最初のコメントを投稿しよう!