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こうして、迅鵺の運命の歯車が、この男によって狂わせられようとしていた。
いや、もう狂わせられているのかもしれない。
ここが、この物語の冒頭だったのだから──・・
「はっ──・・ふっ、うぅっ・・」
首にあるゴツゴツとした男の手は、迅鵺の反応を弄ぶかのように徐々に力が込められていく。
首の圧迫感で、上手く呼吸が出来ずに醜く開かれた口からは涎が垂れていて、首から上が沸騰したかのように熱くて、必死に解どこうと、自分の手を首にある手に伸ばすけど、思うようにいかない。
「くぅっ・・ふっ、くはぁっ・・」
苦しい──・・死にそうだ。
迅鵺がそう思った時、首にある手は知ってか知らずか、ギリギリのタイミングで、少しの迷いもなく一気に手離した。
その瞬間、迅鵺の喉からはヒュッと空を切ったような、心許ない音が漏れる。
「かはっ・・はぁ、あっ、んはぁっ」
酸素を求めて慌てて空気を吸うと、咽び泣くように遠慮のない咳が出ている所を、更に遠慮のない手が再び迅鵺の首を締め付けた。
もう嫌だ───っ!止めてくれっ、やめてっ・・
迅鵺は、食い縛った歯の隙間から涎を飛び散らせ、汗と鼻水で顔を汚し、柄にもなくひっきりなしに涙を流した。
なんで、こんなことになったんだっ───!?
朦朧とする意識の中、痛みと苦しさの中には、確かに快楽もあった───・・
全身が、どうしようもない程に甘く震えて、痺れるような快楽が。
そしてついに、迅鵺の意識は途切れた。
男の満足そうに見下す、終わりの見えない深く濃い色の瞳を最後に。
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