第1章

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「あら。初めまして、タロウさん。ようこそいらっしゃいました」 「あ、どうも」  じじい、必要以上にユリちゃん、ユリちゃん連発しやがって。目がデレデレしてるぞ。アフロの雷さまにチクるぞ。  それから勢さんは、ちょっと声を潜めてぼくに言う。 「うちの社長が時々、団子持ってくんだろ? あれ、ここの団子」 「ああ、あれ!」 「んだよ。ユリちゃん、社長に惚れられて、惚れられて、まーたいへんだったんだから」 「へー」 「わかるだろ?社長がぞっこんになるのも。なぁ?」 「はぁ、どうなんスかね。来たばっかりだからよくわかんないスよ。社長はうまく行ったんスか?」 「うまく行くわけねぇべ!」 「そんなに強く断言しなくても。あ、でも、いまだに団子持ってくるじゃないですか、社長」 「それはな、振られても断ち切れない思いっつーのが、男にはあるんだよなぁ。だって、ユリちゃんだもの。ふふん」 「ふふんの意味が全然わからねぇ」 「いいんだよ。色々あるんだよ。若造にはわかるめぇ。おめーはあと二十五年くらいかかるべな」 「何スか、その遥か遠い年月」 「・・・・・」 「リアクション、ねぇのかよ!」 「ここは和むなぁ」 「え?まぁ、そうッスね」 「番茶がうめぇなぁ」 「うまいッスね」 「落ち着くだろ?」 「落ち着きますね」 「・・・・・」 「・・・・・」 「昔、ばあちゃんがやってた頃は、夏になるとかき氷があってな、子どもにねだられてよく買いにきたもんよ。おめーはそん時、生まれてたか?」 「三十年前でしょ。生まれてましたよ。この辺にもよく来てましたよ。家、近いから」 「かき氷、食ったか?」 「いや~どうだろう。食ったかもしれないけど、記憶にない」 「その時は消えてたかな、この店。おめー邪(よこしま)な子どもだったんじゃねぇか?この店は心のきれいな人間じゃねぇと見えないんだから」 「は?邪じゃないし。百パーセントピュアな子どもだったし」 「ピュア?なんだそりゃ。外国の言葉使うんじゃねぇ!」 「純粋って意味ッスよ」 「いいから食えよ、五目を。それでな、帰りにいなりとかたくさん買って、母ちゃんに土産を持って行ってやれ」 「何でだよ!」 「ユリちゃんはな、こんなところでいなり作って、赤飯作って、まんじゅうや団子作って、ひとりで細々と店を切り盛りしてんだから、さりげなく応援してやるのが男の甲斐性ってやつよな。わしはいつも買って帰るな、母ちゃんに」  
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