第1章

13/19
前へ
/19ページ
次へ
 それは雷さまが怖いからじゃねぇのか。  でも確かに。レジで「五目おにぎり六十円です」と明るく言われた時、茶を飲んでいいだけくつろいでおいてそれでは、なんだか安すぎて不憫な気がした。そう、なんかくつろいだんだ、よくわからないけど。なんだかんだで、楽で居やすかった。  結局ぼくは、いなり寿司と五目おにぎりと赤飯とまんじゅうと団子を二個ずつ、母さんの土産に買ってしまった。きっと母さんは父さんに分けずに全部食ってしまうから、また太ると思う。  そして、レジで金を払おうという時、ぼくは見てしまった。ぼくだけにしかわからない、ある衝撃的なものを。  五目おにぎりを食っていたテーブルからは死角になっていて見えなかった、カウンターの後ろにあったその物体。それは、水の入った透明な金魚鉢に入れられた、金魚鉢ギリギリくらいに大きい、ガラスの地球だった。  考えるより先に言葉が出た。 「あの・・・・」 「はい?」 「これ、何ですか?」 「これ? 金魚鉢に入った地球です」 「そうだけど。なんで」 「タロウさん、八郎沼に行ったことありますか?」 「そりゃあ、地元ですから。ていうか、今もその八郎沼の帰りなんスけど」 「そうなんだ。あのね、八郎沼のスイレンの下には、地球が沈んでいるんですよ、ふふ」 「!」  店を出るとき、勢さんが何かしゃべっていたけど、内容を覚えていない。  確か微笑んでそれを言ったはずの、あの人の顔も覚えていない。  その時、ぼくの中にはパーンッという空雷みたいなのが鳴って、ただ心がざわざわして、それがずっと消えなかった。  家に帰って母さんにいなり寿司を渡しながら聞いてみたけれど、やっぱり、そんな店は知らないという。  それからのぼくは、結構たいへんだった。  普段なら浮かんだ思いは出来事に紛れて簡単に流れていくのに、消えない。
/19ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加