第1章

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 結局、バカをやって沼に落ちたというネタだけが、大人になっても延々家族や親せきの間で語り継がれている。  今思えばむりもない。そんな荒唐無稽な話、しかも子どもの話なんて、沼に落ちたショックでちょっとおかしくなっちゃったんだな、夢でも見たんじゃないの的な笑い話だ。説得力ゼロ。信憑性ひとつもない。自分でもちょっと笑える。「この胸のトキメキをみんなにシェアーしまーす!」と意気込んで撃沈した恥ずかしい思い出。やっちまったな。あの時のぼくの真剣な思いを、真剣な言葉を、誰も受け入れなかった。    幼い頃の、この特異な臨死体験を経てぼくがどんな大人になったかというと、この体験をまったく意に返さない、中途半端でだらだらとした大人になった。  ぼくの体験がいつのまにか「昔から周りに迷惑をかけるバカ」と事もなげに身内で語り継がれるのも、それにかけての説得力の方はすごくあるからだと思う。  小、中、高校は普通に行って、すごく真面目でも不真面目でもなく、時々学校は休むけど残りは行って、身を入れて授業を聞いているわけでもなく、かといって部活に熱中するでもなく、友だちは結構いて、浅く広く数だけ多くてそれなりにつきあって、成績はいつでも中の下から下の中あたりをウロウロしてて、その成績で自動的に進路は決まって行って。  ただ、昔から、みんなと一緒にいるのに、同じようにやっているのに、ぼくだけ見つかって怒られることがよくあって、目立つ何ものもないのになんでだ? 何か体から光でも出てんじゃねぇのか?と思うことはあった。  間が悪いというか、タイミングが良すぎるというか、普通なのに不憫というか、つまらないことでひとりだけ怒られて、親が学校に呼ばれたりした。  男子六人で三時のおやつに給食室から余っているパンを持ってきて食べていたらぼくだけ見つかったり、音楽の時間にだるくて口パクで合唱曲を歌っていたらぼくだけ見つかったり、祭りの日に縁日でどさくさに紛れてビールを買って飲んだらぼくだけ見つかったり。
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