第1章

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 中には本当にぼくは何もしていないのに誤解やとばっちりで怒られることもあって、さすがにそういう時はぼくも真実を必死で述べたけれども、相手が高圧的だったり、融通の利かない頑固者だったり、どんな言葉も最初から受け入れる気のない冷たそうな輩だったりすると、ぼくはもう面倒くさくなって色々なことをあきらめた。だから、なんでか知らないけど、そんな悪い子じゃないのに、親は小、中、高と学校に呼ばれて、母親は「もう苦労ばっかりよ! キーッ!」と怒りにまかせて知人、友人、親戚連中にぶちまけたから、ぼくのしょうもない評判はかなり浸透した。  なんとなく学校に行き日々を過ごして、その時々に好きな子ができて振られたり、たまにうまくいったりしながら、はっきりした目標や目的などないまま、気づけば高校を卒業して社会人になっていた。  社会人世界は厳しかった。  そりゃあもう、驚くほどに。  それまでの学校生活のゆるさが嘘みたいに、ガチガチにうるさかった。シビアだった。冷淡だった。利己的だった。容赦ない世界。  そんな中でも相変わらず何かにつけて見つかる特技だけは続いていて、中途半端でふらふらしているぼくは、ダメ出しばかりの日々に疲れてなんだかいつもブーたれていた。  最初に就職した食品会社の営業は上司が横暴で二年で辞めて、次に就職した運送会社はオヤジたちの荒さについていけずに一年で辞めて、次に就職した配管工事の会社は結構長く続いていたんだけど、三年目に入ったところで給料未払いのまま会社が倒産して、その後はいろんなバイトを転々としてなんとか日銭を稼ぎ、これでも行けるかと思ったら、親が「いい加減フリーターは止めて社会保険とか年金とかついている定職につきなさいよ、いい歳なんだから」とうるさくて、日々のプレッシャーがすごくて、母さん怖くて顔が鬼みたいで面倒くさいし、しかたなく職安に行って探した設備会社に今はいる。
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