第1章

6/19
前へ
/19ページ
次へ
 これまで運悪く見つかった色々は、「やる気を見せろ」「引くことも覚えろ」「アクティブに動け」「デンと構えろ」「頭使え」「気が利かない」「無駄なことやるな」「「回転がにぶい」「明るい顔しろ」「発想を変えろ」「返事は大きく」「目標達成しなきゃ意味がない」「バカ正直にやってどうする」「相手のこと考えろ」「段取りしてからやれ」「人を手なずけろ」「同じこと繰り返すな」「もっと飯食え」「見て覚えろ」「ずるくなれ」「サクサク進めろ」「笑え」「走れ」・・・ええと、あと何だったけな。それを人はすごい顔で、ぼくを大嫌いな目で、声で言う。  ねぇ、家で奥さんとケンカでもしたんじゃないの?子どもがグレて家庭が荒れてるとかじゃないの?なんかイヤなことがあって一方的に当たってない?ぼく、結構人当たりいい方で、争いを好まないし、むやみに人に思いをぶつけたりケンカ売ったりしないし、人の話だってちゃんと聞く方なのに。  だいたいさ、全部聞いてると、ぼく、どんだけだよ、どんな人間なんだよって悩む。「笑え」「走れ」と来たら、今度は「飛べ」とか「光れ」とか「消えろ」とか言われちゃうんじゃないかと。しまいには腹かかえて笑うぞ。もしかしたら泣くぞ。  あ、社会に物申すなんてそんな大それたこと考えてない。自分を認めて欲しいなんて子どもみたいなこと思ってもいない。言いたいのは結局、それでもぼくもみんなも暮らせるってこと。暮らせるけど、社会人は厳しいってそれだけの話。  仕事が長続きしない負い目はちゃんと自分で感じていて、そこでもかなり病んではいるんだけど、「よっしゃー!」って奮起して人生変えようとするほど意志が強いわけでもないし、言われたことを反省して次に生かすタイプでもないし、挙句の果てに「ああ、そうですよ、どうせぼくはずっと昔から中途半端ですから」って開き直って、いつも三十パーセントくらいの目覚め方で、深く考えず、ストレス溜まったら酒飲んだり、マンガ読んだり、ジム行って気分だけやってる感醸し出して、それでも流れだけで生きて来られた。  時々、死んだように昏々と眠りたくなる。静かで冷たい水の中で、何も考えずにダルマ浮きしたくなる。  気づけば、三十五歳だ。いいおっさんになってしまった。
/19ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加