これほどに重いものはないのだから

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勇二は生まれる前に戦争があったことを知っている。 それがどのように悲惨な内容であったか目にしたことはないが、時子や清二やよし子が話す戦争の話にいつも押し黙る。 勇二が小学校に上がってから清二は運転免許をとり、車を購入した。 農家であるのだから遠出は出来ないが勇二と時子を乗せ町に買い物に出掛けたり、夏場は海水浴にも出掛けた。 相も変わらずぶっきらぼうだが、時子にも勇二にも清二がちゃんと家族を思っていることが伝わっている。 幸せな家族。まさにそうだろう。 勇二も母の時子がずっと待ち続けているまだ見たこともない一太がいつか帰ってくるのだろうと信じていた。 時子は、薄らいでしまった一太の話をよく勇二にする。 「優しい兄ちゃんだった。勇二も優しい男になりなさいよ」 勇二は、そう言われるたびに頷く。 「一太おじちゃん、いつ帰ってくるのかな?」 「分からないけど、死んだなんて報せは来てないんだから帰ってくるよ」
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