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行きずりの部屋
「悪い。俺、これから彼女の家に行く事になったからさ!」
さっきまで俺と飲んでいた友人が、スマホに届いた一通のメールを見てそう言った。
「彼女と喧嘩したんじゃないのかよ」
「そうなんだけどさ。許すってさ!やっぱ俺がいないとダメらしい。悪いな、俺から誘っておいて」
友人は、飲みかけのグラスを置きっぱなしで足早に店を出た。
一人残されたが、一人で飲むにはこの店は向いてない。
賑やかすぎる。
俺は残った酒を飲み干し店を出た。
とはいえ、まだ飲み足りない。
一人で部屋で飲むよりは、馴染みの飲み屋に行くべきか。
そう思い、いつもの店に向かった。
馴染みの店は、路地裏にひっそり佇んでいる。
見た目は小さいが、酒の種類は豊富で、内装も洒落ている。
いつも誰かすら飲みに来ていて、家で飲むよりは孤独を感じない。
ドアを開けると、年老いたマスターが会釈した。
カウンターには、すでに男が二人が座っていた。
仕方なく、テーブル席に向かう。
席に座ると、前方でこちらを向いて座っている女性がいた。
おかっぱのような髪型で背も小さく、まるで十代に見えた。
ふと、その女性と目が合った。
女性は照れくさそうに会釈をしたから、俺はダメ元で一緒に飲みませんか、と誘った。
「お話だけでもいいですか?」
「飲まないのかい?」
「はい。ここで飲んじゃうと寝てしまいそうなので。ただ、雰囲気だけ楽しみたくて」
俺は酒を飲み、彼女は話し相手になった。
彼女の名前はカンナと言った。
昨年、二十歳になったという。
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