行きずりの部屋

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しばらくして、急に部屋が蒸し暑くなり目が覚めた。 ジトジトと服の下に汗が広がる。 「暑い……」 手で顔の汗を拭うと、思った以上に汗だくだった。 その時、ポタリと額に何か水のようなものが落ちてきた。 額についた液体を探ると、粘り気のある液体が指についた。 色は黒っぽく見えた。 天井を見上げると、さっきまでなかった大きなシミのいたるところから、まるで葉についた朝露の如く、この粘り気のある黒い水が一滴二滴と落ちてくる。 何だよ、この部屋は……。水漏れでもしてるのか? 体を起こそうとしたが、何故だか起き上がれない。 まるで体を床に固定されたかのように、起き上がる事が出来なかった。 何とか動かせた手で、隣の彼女に助けを求めたが、彼女はまるで起きる気配がなかった。 俺はただただ、黒い水が滴る天井を見上げるしかなかった。 朝になれば、彼女が起きてなんとなると思った。 だが、異変は起こり続けた。 どこからか、さっき嗅いだ異臭がさらに強く香ってきた。 しかも、今度は髪が焼けるようなニオイまでしてきた。 何とか動かせる手で鼻を塞ぐが、完全には防げない。 こんなニオイの中でも、彼女は背を向け寝ている。 このニオイに気づかないのだろうか……。 ニオイに耐えながら、目を瞑っていると、どこからかうめき声が聞こえて来た。 低く、地を這うような、唸り声。 目を開けると、天井の黒いシミがボロボロと黒い水と一緒に剥がれ落ちてくる。 部屋の暑さは、心なしかさっきよりも上がっているようで、汗が噴き出してくる。 壁のシミは家具にまで伝わり、天井のシミから何かがうごめいているのが見えた。 沸々と煮だった湯のように、黒い何かがシミの中から少しずつ姿を現す。 それは、人の形をしていた。 まるで助けを求めるかのような指先と腕から。 黒く皮膚も肉もない。 もがくように、天井の黒いシミから腕が何本も現われる。 そして、黒く焦げたような骨だけの顔と体が、天井のシミから垂れ下がった。 俺はそれを見て、恐怖で心臓が張り裂けそうだった。 黒焦げの人達は悲痛な表情で、床に寝ている俺に向かって助けを求めているようだった。 その体からは、黒く粘り気のある水が流れ落ち、そのニオイと恐怖で俺は気を失ってしまった。
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