行きずりの部屋

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「ちょっと、あんた何してるんだ」 男の声が聞こえ、俺は目を覚ました。 俺を起こしたのは、パトロール中の警察官のようだ。 「こんなところで寝ちゃだめだよ……」 怪訝な顔で、そう警察官は言った。 ふと、昨夜の事を思い出し、俺は慌てて体を起こした。 そこで目にしたのは、昨日までと全く違う光景だった。 隣で寝ていた彼女の姿はなく、それどころか家具もない。 壁は真っ黒に焦げ、一部は崩れていた。 驚いたのは天井だ。 天井は黒く焼け落ち、骨組みが見えて一部は空まで見えていた。 床も焼けて、焦げ臭いニオイが鼻につく。 警察官はさぞ、俺の事を不審者だと思っただろう。 外に出て、改めてアパートの全体を見ると、火事で焼けたのか黒焦げの骨組みがむき出しになっていた。 俺はその警察官に昨夜の事を説明したが、その疑惑を払拭させるには随分と時間がかかった。 その後、警察官に聞かされたのは、火事が原因であの部屋で若い女が亡くなった事と、住人のほとんどが焼死した事だった。
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