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躾のなっていない親も含めて怒りを覚えた彼は、その子供を睨みつけた。すると、またすぐに引っ込んだ。睨まれたことに気づいたか、それともついに注意されたか。とにかくこれでやめてくれるといいけど、と不安に思いつつスクリーンに視線を戻すのだが、顔はまた現れる。今度は四列目、左端の座席に。
傍若無人な振る舞いに呆れてしまった。きっと、将来ろくな大人にならないだろうと憐み、今度こそ無視しようと視線を逸らしたのだが、そこである疑問が生じた。
なにかがおかしい……とすぐに視線を戻したが、その途端に顔は引っ込んでしまう。だがすぐに別のところから現れた。次は五列目の、中央付近。
やっぱりおかしい。いくらなんでも早過ぎる、あんなにすぐ移動できるはずがない。それにどうして誰も注意しないのか……。おかしい、絶対におかしい……。
そう考えている間にも、子供は、六列目、七列目と移動を繰り返して、八列目から顔を覗かせたときには全身が震えた。あれは生きている人間じゃないと気づいて、戦慄を覚えたのだ。背筋に氷の塊を押しつけられた気分だった。
九列目。
十列目。
いつしか、その子から目が離せなくなっていた。
身体が、腕が、足が、椅子や手すりや床に張りついて動かせない。
金縛りだ。
十一列目。
十二列目。
十三列目。
もう、すぐそこまで来ている。
嫌だ、怖い、来るな、逃げたい、動け、動いてくれ!
切なる願いは虚しく、顔は消えてもすぐに現れる。十四列目、すぐ目の前にある座席の背もたれの向こうに。
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