彼氏のために編んだマフラーが焼き鳥になりました

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  「彼氏のために編んだマフラーが焼き鳥になりました」  全国的に小春日和だった日曜日の夕暮れ。商店街前の交番を訪れた女の子は、ビニール袋を手に泣きそうな顔で申し出た。マルKの愛称で親しまれているコンビニのロゴが入ったビニール袋の中では、焼き鳥と呼ばれ古くから愛されてきたジャパニーズソウルフードが、その消費期限を悲しげに減らし続けていた。  いや、悲しげに見えるのは、私が昨晩冷めた焼き鳥を一人で食べた記憶がまだ鮮明に残っているからだろうか。  近所の大型集合住宅に住む女子高生であるという彼女に詳しく話を聞いてみたところ、なかなかに奇妙な事件が起こったようだ。  現在交際中のタカシというボーイフレンドのために、先月から親戚の家でレクチャーを受けこつこつ編んでいたマフラーが、つい一時間ほど前に完成したという。  このマフラーの完成を心待ちにしているタカシの喜ぶ顔と、タカシがそれを身に付け照れ笑いしながら男友達に自慢して「リア充爆発しろ」と言われているところを想像し、気分上々スキップをしながらの帰宅中、悲劇は起きた。 「木の上に猫がいる!降りられなくなったみたいだ!」  という、鼻を摘みながら喋ったかのようなダミ声が響き、大の猫好きであるという彼女は、迷うことなく手にしていたマフラー入りの紙袋を投げ捨て、木に登ったそうな。しかし、北風吹く中も緑生い茂る万葉樹の上には、一切の猫要素は見当たらなかったと、彼女は溜め息を吐いて話した。
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