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暖かい明かりの灯る人家を眺めながらやがて目的の民宿に辿り着きました。「山鳴やまなり荘」と墨字で書かれた看板が掲げられているだけの、簡素な民家でした。
<ここで私は自分のパソコンを開き、山鳴村を検索してみた。確かにその村のサイトはあった。のどかな山村の風景や農作物の紹介、山鳴荘の案内もあった。だが、奇妙なのは検索でヒットしたのがその一件だけだったことだ。>
チャイムを鳴らしましたが、誰も出てこないので自分で引き戸を開けました。
「いらっしゃいませ。お待ちしておりました」
宿の奥から、愛想のいい中年の女性が出てきました。ごく普通のシャツとスカートにエプロン姿です。
案内された部屋に荷物を置いて、窓を開けました。既に日は暮れ、山々のシルエットに星が輝いていました。
先ほどの女性、この民宿の女将がお茶とお菓子を持ってくると、僕はなにげなく尋ねました。
「さっき祭囃子が聞こえたんですが今日は何処かでお祭りがあるんですか?」
その瞬間、女将がお茶の乗ったお盆を畳の上に落としてしまいました。
彼女はそれを拾いもせず、呆然としたように僕を見つめています。
「お聞きになったんですか?」
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