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「え……ええ、浴衣を着た男の子にも会いましたよ。ああ、それから地図にない分かれ道があって迷いそうになっちゃいましたよ」
「ああ、申し訳ございません。うっかり描き忘れちゃって」
女将は慌ててお茶やお菓子を拾い上げると、畳を布巾で拭いて部屋を出て行ってしまいました。
三十分後、女将はまたやってきました。今度は夕食を運んできて、失礼を詫びました。
夕食は、何かの肉料理でしたが、なかなかいい味がしました。でもさっきの女将の態度が気になってその美味しさもあまり堪能できないまま、酒で流し込み、テレビをつけてみました。なんの変わりもないいつもの番組を見ていたら少し心が落ち着いてきました。
そういえば、この宿に他に人はいるんだろうか。廊下に出てみると、中年の夫婦が別の部屋から出てくるのが見えました。
僕はすれ違う際に声をかけました。
「こんばんは」
「こんばんは。どちらからいらっしゃったんですか?」
奥さんはとても人の良さそうな方でした。当たり障りのない話をした後、さりげなく聞いてみました。
「途中で分かれ道があったでしょう? 迷われませんでしたか?」
「え? そんなのありませんでしたよ」
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