読むな

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 奥さんはとても不思議そうな顔をします。 「ああ、じゃあ、僕が道を間違えただけですね。あ、それから祭囃子はお聞きになりましたか?」 「いいえ、聞いてませんが」 「そうですか」  いよいよ不審そうな顔をする二人の顔に追い立てられるように、そそくさと廊下を先に進みました。ついでだから風呂でも覗いてこようかと思ったのです。途中で台所の入り口が見えました。お茶のおかわりでももらおうかな、と台所に入ると誰もいません。何故か異様に大きい冷蔵庫が気になってしまい、開けてみようと手を伸ばしました。 「何をなさってるんですか?」  後ろから突然の声に慌ててドアを閉めましたが、一瞬、何かの塊がいくつも見えたのは確かでした。 「すみませんが、お部屋にお戻りいただけないでしょうか」  凍るような声に背中に冷水を掛けられた気がして、そのまま部屋に戻ると、既に夕食は片付けられていました。  風呂に入り、床についても、目が冴えてしまってなかなか眠れません。少しうとうとしかけた時、悲鳴が聞こえた気がしました。それから何かを叩くような大きな音。  何をしているんだろう。布団から起き上がって、そっと廊下を覗くと叩く音はまだ聞こえています。台所のほうからでした。  どすん、どすんという重い響き。  魚でも捌いているんだろう。そう思っても気になって仕方がなく、足音を忍ばせて廊下を進むと台所を覗き込みました。  今思い出しても身体が震えてきます。  民宿の女将ともう一人の男が先ほどの夫婦を捌いていたのです。男が血まみれになった鉈で手足や胴体をばらばらにし、女将が黙々とそれをビニール袋に入れています。  僕は悲鳴を上げることも出来ず、その場で気を失ってしまいました。  気が付くと部屋に寝かされていました。  部屋には女将と、その夫と思われる男が座っていました。 「気が付かれましたか? 斉藤さん」  僕は慌てて飛び起きました。 「明日の朝、お話をするつもりでしたが、ご覧になってしまったのなら仕方がありませんね。どうぞそこにお座りになってください」  威圧的な態度に押しつぶされるように、僕は二人の前に座るしかありませんでした。 「私達夫婦はここで何十年もあなたのような方をお待ちしておりました」  男のほうが口を開きました。 「すみません。何の話かさっぱり判らないし、あんた達、人殺しじゃないですか!」
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