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家に帰り、とうとう本の紐を解きました。それは日記帳で、あの夫婦の記録でした。彼らも僕と同じようにあの村に誘い込まれ、旅人が泊まりに来るたびにどうやって殺したのかがこと細かく記されていました。
これが僕に起こったことの全てです。『読むな』と言われた本を読んでしまったからには、もう後戻りは出来ません。でも、もうこの連鎖は終わりにしたい。この本は村に持って帰らず、誰かに送って処分してもらうことにしました。送る人物は毎年、僕に唯一年賀状をくれる河辺君にしました。本当に申し訳ないとは思いますが、君は部外者ですし、この本を読まずに処分してしまえば何も起こらないはずです。これから、この本とノートをダンボールに詰めて近くのコンビニに出しにいきます。もうそのコンビニから森の入り口が見えるようになってきています。僕はあの村に戻ります。ご迷惑をおかけしますが、どうかよろしくお願い致します。
以上が、ノートに書かれていた内容だった。最後のページには八年前の日付。今頃届いたのは何故なのか、もう考える気力もなかったが、唯一、思い出したことはその頃に年賀状も来なくなっていたことだ。そしてあの卒業アルバム。改めて見てみると、そこには写っていたはずの彼の姿がなかった。これが違和感の原因だったのだ。だが、こんなことが本当にあるはずはない。アルバムだってたまたま写っていない写真が載ったのかもしれないし、第一、普通にサイトがある村なのに……。
私は自分の目を疑った。サイトの画面が消えている。しかも、改めて検索しても二度と見つけることは出来なかった。
頭が混乱してきた。心を落ち着けるためにコーヒーを淹れに行き、戻ってみるとテーブルの上に置いたノートが消え失せていた。
まあ、いい。とにかくこの『読むな』と言われた紐を掛けられた本を何処かに捨ててこよう。
しかし本を手に取った時、妙なことに気付いた。
これは違う。斉藤が読んだという日記帳じゃない。
これは……この、紐で頑丈に括られているのは、さっきまで私が読んでいた斉藤の書いたノートだ。
いや、まさか。そんな馬鹿な。慌てて辺りを探したが日記帳は見つからない。
と、いうことは……。
叫びだしそうになる自分を押さえ込み、急いでノートを鞄に詰め込んで雨の降りしきる部屋の外へ。これを捨てればまだ望みはあるかもしれない。
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