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それにしても、いい女だ。
小さな色白の顔にウェーブのかかったセミロングがよく似合っている。そして微笑みを浮かべている悪戯っぽい目が、大人びた知的な顔立ちの中でそこだけ幼い印象を与えて、ぞくっとするほどセクシーだ。
ここで彼女を好きになってしまったら僕の負けだ。負け?負けてもいいな。この人なら・・よし。
「嫌いなタイプはありません」
彼女は「えっ」と意外そうな声を出した。僕は続ける。
「女性はすべて素敵です」
「・・博愛主義なんですね。さっき私が言ったジェームズ・ボンドのような?」
「そうかもしれない。でも嫌いなタイプをはありませんが、困ったなと思う女性はいます」
「困った?どんな女性ですか?」
「貴女です」
「え!?私?なぜ困るの?」
さあ言うぞ!僕の正直な気持ちを込めた決めゼリフだ!
でもこのキョトンとしている顔が・・ああ、たまらない・・僕はもう貴女に降参です・・
「まだ名前も知らない貴女に僕の心が奪われたから」
彼女は一瞬、意味が分からなかったようだが、すぐに笑い出した。
「お上手ですね。ジェームズ・ボンドさん」
「いいえ、冗談ではなくて・・」
「楽しい時間をありがとうございました。今日はこれで失礼します」
しまった、怒らせちゃったか。僕の本当の気持ちを言ったのに。
しかし彼女は微笑んだまま僕を見てこう言った。「私は麻結美(あゆみ)といいます。あなたはジェームズ・ボンドさんでいいかしら」
「僕は・・・」
ああ良かった。怒っていなかったようだ。僕は彼女に自分の名前を教える。彼女・・麻結美さんは席を立ってコートを手に取った。
「帰ります。楽しかったわ」
「今度お会いするまでにちゃんと観ておきます」
「何をですか?」
「007シリーズを全部観て、男としての魅力を勉強しておきます」
「面白い人ね。じゃあ、おやすみなさい」
彼女は僕に笑顔を残して帰っていった。一人になった僕はバーボンのグラスにつぶやいた。
「麻結美さん・・僕は貴女に心を奪われてしまいました」
~END~
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