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K公園は結城の職場近くにある公園だ。春には桜が咲き乱れ、秋には様々な木々が鮮やかに色づく美しい公園として知られている。
約束の三十分前に着いた賀川は、結城が見つけやすいようにと広い公園の入口近くに置かれたベンチに腰を下ろした。瑞々しい早春の宵の空気を胸いっぱいに吸い込む。夜気はまだ冬の名残を色濃く留め、吐く息が白く闇に浮かんでは消えた。
結城を待つ時間は思った以上に賀川を緊張させ、また幸福にさせた。
結局こうなるのだと、どこかで判っていたような気がする。同じクラスになり、初めて目が合ったその日から。
ほどなく軽い足音がこちらへ向かって駆けてくるのが聞こえた。目を凝らすとほっそりとしたシルエットがまっすぐに近づいてくる。仕事が終わってからすぐに駆け付けたのだろう。
賀川から少し離れた場所で立ち止まった結城は、小さく唇を震わせながら、どこか泣きそうな目で賀川を見つめていた。
文庫本に挟まれた無愛想なメッセージを受け取ったとき、結城がどんな顔をしたのか見たいと思っていたが、それはきっと今目の前に見ている顔とまったく同じなのだろうと思った。
薄ぼんやりとした常夜灯の下でも、その顔が上気しているのが判る。髪を少し乱して、薄い唇からは熱い息が忙しなく吐き出されている。
賀川はなにか喉奥がつまるような感覚を覚えて、無理やりのように笑った。
「……おまえ、そんな薄着で」
「え」
結城が自分の格好を見おろすのと同時に、賀川は結城の腕を引いて、そっと抱き寄せた。びくんと小柄な身体が大きく震える。
「馬鹿だな、」
風邪引いたらどうすんだ。耳元で囁くように言って、自然な仕草で結城を自分のロングコートの中に引き入れた。
「うん、……ごめん」
結城も自然にそう呟いて、それからしがみつくように賀川の胸に横顔を埋めた。
どちらからともなく満たされたような溜め息が零れる。言葉を交わすのが二度目だとは思えないくらい、ふたりはただしばらく離れていただけの恋人のように深く寄り添った。
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