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 賀川の出発の日、結城は半休を取って東京駅まで見送りに来てくれた。また泣き顔を見ることになるのかと思ったが、結城は意外にもすっきりとした顔をしていた。約束があるのなら自分は待てるのだと言って。 「でも、連絡はしてほしい。……そんなに、しょっちゅうじゃなくても、…いいから、」  そう言って目を伏せる結城は、無意識に賀川の理性を試していることに気付かない。  抱き締めたいのを堪えて、結城がぎゅっと掴んでいる肩掛けのバッグを見ると、見覚えのあるストラップがつけられているのに気付いた。 「あ、これ、」  賀川がそっとそれに触れると、結城は恥ずかしそうに頷いた。 「憶えてる?」 「もちろん」  そう言って、賀川は自分のビジネスバッグから赤い石のストラップを取り出して見せた。長年キーホルダーとして愛用している。 「ほんとに? ……ずっと?」  結城が目を瞠り、だが嬉しそうに問う。 「ああ、ずっとだ。おまえもだろ」  結城は頷いて、大切そうに青い石を撫でる。 「あのとき、この青い石を見て、賀川に似合いそうだなって思ったんだ。それでじっと見てたらおまえが来て、いきなりオレにくれたからほんとにびっくりした。お礼を言おうとしたら、おまえ、すぐにどっか行っちゃっただろ。だから別のを買って渡そうと思ったんだ。返したと思われたらイヤだから色違いのを選んで」 「ああ、家に帰ってびっくりした。おまえ、随分スマートなやり方だったよな。平然とあんなウソついて。意外と手馴れてんのかと思ってちょっとショックだったんだぜ」 「そんなわけない。バスに戻る前にこっそり渡したくて探してたのにとうとう見つからなかったから仕方なくああいう方法にしたんだ。おまえは人気者だから、オレなんかが話しかけたら不自然だろ」 「おまえ、……そんなこと思ってたのか」  驚いて見つめると、結城は少し寂しげに笑った。
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