1章 出逢いは突然に

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・ その彼を家に入れた途端にあたしの携帯電話が鳴りだした。 「はい」 「お、晶。うちの稼ぎ頭はそっち着いたか?」 「稼ぎ頭──…って夏希ちゃんのこと?」 芸名は売れる売れないでよく変えられる。 昔から事務所の個人プロフィールをよく目にしていたあたしは芸名よりも本名の方が馴染み深い。あたしは小声で叔父の健兄に逆に問い掛けていた。 まだ、“家に上がれ”とも言っていないにも関わらず── 自分の家の様にズカズカとうちに上がった彼は図々しい程にリビングのソファに腰掛け長い足を組んでいた。 「勝手にうちに上がってきたけどどういうこと!?」 あたしの小声の問いに健兄は笑いながら口を開く。 「いやあっはは!実はな、ちょっと事務所のタレントを売り出すのにアイツに協力頼んだんだよ…で、今マスコミがアイツのマンション張ってるから、ほとぼりが冷めるまで家に身を隠させるかってな…」 「………」 「なんだ?嫌か?」 無言のあたしに健兄が訊ねた。 「いや、別に…健兄の家な訳だし…あたしも居候の身だから何も言えないけどさ──」 文句はたいしてないけれど、心の準備も無しに他人が急に入り込むってのは少々抵抗があるわけで…… 「ほとぼりが冷めるまでだ!ガキの時から事務所(うち)にいて息子みたいなもんだ。ほんの一、二ヶ月ってとこだろうから頼むよ」 「わかった」 「開いてる部屋使わせてやってくれ。マンションの鍵もお前スペア余分に持ってただろ?それ渡してやってくれ」 「はいはい、了解しましたよ」 そう答えるしかない。 うーむ…どうしようかな… 鼻の頭を掻いて考える。
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