1章 出逢いは突然に

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・ 言わば、夏希ちゃんはあたしの第二の目覚まし。 「夏希ちゃんいつもありがとう」 目が覚めたらおはようの代わりに真っ先にお礼を言う。先手を打っておくと夏希ちゃんは怒るに怒れないらしい。 大人の世界で小さいころから芸能の仕事をしてきている夏希ちゃんは若いなりに、自分のことは自分でキチッとできる自立派だ。 「なんで朝シャンして二度寝する?次は止めないよ?毎回部屋からきて起こすのしんどいから!」 顔を洗って洗面所から出てきたあたしに、ため息吐きながらそう言った。 あれっとうとう怒っちゃった? 夏希ちゃんはなんだか不貞腐れた顔で部屋に引っ込んでいく。 「うーん失敗…頼り過ぎたかな」 ははっと笑いながらその背中を見送ると、あたしはバイトの準備を始めた。 髪は手入れの要らないストレートのショートだから手櫛でオケ! 上京しても一向に職は決まらず何気に始めた喫茶店でのアルバイト。 ゆくゆくは自分のコーヒーショップを開きたい。いつしかそう思うようになっていた、実は今はこれがあたしの夢! 部屋に閉じ籠った夏希ちゃんに“いってきます”と玄関から叫んで、あたしはバイト先に向かった。 「おはようございます!」 「おはよう、晶」 看板を出していたマスターに挨拶をしてあたしはタイムカードを押した。 広い家に一人で居た時より、夏希ちゃんが来てから何気に快適な生活が送れている。 開店前、あたしは大きな窓ガラスを拭きながらその手をふと止めた──
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