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「ああっ、どうしよう」
女子高生の由希乃は、バイト先の本屋の店先で途方に暮れていた。
仕事を終え、外に出ると夜更けの商店街は少し強めの雨が降っていた。
「置き傘もないしゴミ袋でも被って帰るしかないかなあ」
諦めて店内に戻ろうとしたとき、背後から声がした。
「これ、使って」
振り返ると、向かいの弁当屋の若い店員が、折りたたみ傘を自分に差し出していた。店から飛び出してきたのか、エプロン姿の彼はあちこち濡れていた。
「あ、お向かいの……いいんですか?」
「うん。他にも傘あるから。女の子が濡れて帰るとかヤバいでしょ。ほら」
すこしつっけんどんに傘を差しだす彼。
由希乃はおずおずと手を伸ばした。
「あ、ありがとう、ございます。これ、あとで乾かしてお返しします」
「いつでもいいよ。じゃ、気をつけて」
それだけ言うと、彼は小走りに弁当屋へと戻っていった。
由希乃はぺこりとお辞儀をすると、折りたたみ傘を開いた。
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