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「梨花さんと結婚させていただきたく、ご挨拶にうかがいました」
と頭を下げる彼に、少しだけ意地悪をしたくなり
「娘さんを僕にください!……とは言ってくれないのかな?」
と返した。
梨花は少し戸惑い、彼は一瞬だけその言葉の意図を探ろうとしたが、私の顔を見てすぐに言葉を返した。
「お父様は梨花さんの人生の一部です。お父様から梨花さんをいただくことも、梨花さんからお父様を切り離すことも僕にはできません。
できれば僕を、お二人……」
そこまで言って、隣の部屋の仏壇に目を向けた彼は、 微笑む妻の写真を見つめたあと
「僕を、三人の家族の中に入れていただきたいです」
と改めて深々と頭を下げた。
私はもう返す言葉が浮かばなかった。
彼が帰ったあと
「冗談が通じないところが、お父さんに似ているな」
と言うと、梨花はいつもの顔で笑った。
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