契り

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どんっ、とジョッキを下ろし、なげやりに「で?」と一言。 「音がな、──するんだよ」直樹の目に若干の光が戻る。 「音? どんな?」 「畳を擦るような音だろ、床に何か転がるような音、──壁をノックする音」 「マジ、......で? え? お前、怖くないの?」 「怖えーよフツーに、でも音だけだから、なんか慣れてきたわ」 「慣れるんだ?」何やらメモを取り出し、書き始めた。そのまま、いつ、どこで、どんな時? と、事細かく質問され、一通り説明した後、俺は一番気になる事を直樹に尋ねた。 「寝室を2階の洋室にしてんだけどさぁ、隣の和室から畳の擦れる音がさぁ......、日に日に近づいて来てるっぽいんだよね、──俺のベッドに」 「怖えぇぇ、やめろお前、嘘だろ? どっかで聞いた事ある話だ、作り話だろ?」 「いや、本当。こう言うときは寝床を変えたほうがいいのか?」 しばらく絶句していた直樹が口を開く。「悪りぃ、──分からん。調べておくよ」それから二、三、直樹の質問に応えると、その場はお開きとなった。 結局、寝床を変えてもそっちに来たら同じだと思い、俺は同じベッドで寝続けた。 擦る音は相変わらず、近づいて来ているように感じたが、なるだけ気にしないようにしていた。
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