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俺は裸足なので店には入れず、ファミレスの駐車場でうずくまり直樹をまった。やがて頭上で声がした。
「おす、とりあえず中に入るか」とサンダルを投げながら直樹が言った。
席につき対面する俺の顔を見て顔をしかめる。「酷い顔だな、真っ青だぞ」それだけ言うと、俺の気持ちを汲んでいるのだろう、こっちから話すまで待つつもりのようだ。
冷たい水を一気に飲み干し、ふぅ~と長い息を吐き、さっきの出来事を話した。
一通り話を聞き終え、直樹が口を開いた。「でっ、どーする? 実際でるのなら、あそこには住めないだろ?」
「そんなこと言っても、引っ越しをする金がねぇ、貯まるまでは住まなけりゃ......」先ほどの恐怖が甦りテーブルで頭をかかえる。「純哉、その指どうした?」と、直樹が言う。──指? 頭から両手をテーブルに下ろす。
「......なんだよ......これ?」俺の声は震えていたと思う。左手の小指に、小さな無数の傷がつき、血は出ていないが沢山の傷で指が真っ赤に見える。
「......なぁ直樹ぃ、なにこれ? 」涙声で問う。
「俺にも分からない。──でも、あの部屋からは離れたほうがいい」直樹の冷静な言葉に腹が立った。
「なんでおまえはそんなに冷静なんだよ!」テーブルを両手で叩くと立ち上がり、叫ぶ。まわりの客の視線が刺さるが、知ったことか、直樹を睨み付ける。
奴は俺の目を真っ直ぐに見て言う。「俺だって怖えぇよ、でも、ふたりでパニクっててもしょうがねぇだろうが!」立ち上がり、俺の肩に手を置き、座らせる。完全に八つ当たりだ、解ってる、俺は、恐怖と情けなさで声を殺し泣いた。
「家に使ってない部屋があるから、金が貯まるまでそこで暮らせ、明るくなったら一旦帰って必要なものだけ運んじまおう」
俺はうなずく事しかできなかった。
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