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左手をこっちに向け、今は顔も上げている。その顔は、蒼白く美しい。怒っているようにも、泣いているようにもみえた。
上げている左手、──違和感の正体。女の左手、小指が短い......、第一間接が欠損していた。
「それかぁ、...... あぁっ! それなのかぁ、あー!?」 言いながら、辺りを見回す、散らかった部屋からハサミをみつけ素早く拾った。
「ほしけりゃ、くれてやるよ!」
俺はそう言うと、右手で持ったハサミを左手の小指にはさみ、力一杯右手を握った。
「ぐうぅわあぁぁぁー」激痛。流れ落ちる血。痛みと熱で意識が飛びそうになる。側にあるテーブルを脛で蹴り上げ、意識を保つが、所詮は文房具のハサミ、肉は切れても骨までは断てない。俺はハサミを投げ捨て、血と膿でグロテスクな小指を口に含み、力の限り噛みついた。激痛で震える左手、力を込めて震える顔。
ごりっ、と鈍い音が頭に響き、口から指が離れる。ぺっと口から小指を吐き出し、右手で取る。「ほらよ」と、それを女に、ぽいっと放り投げた。
頭が朦朧とする......左手が痛い......涙で滲み女の顔が見えない......。そのまま、ゆっくりと意識の底に沈んでいった。
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