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流石、俺を一番よく知る男、痛いところをついてくる。確かに金はない、身の丈に合わない買い物をしてしまい、高額ローン返済中だ。それで、今のアパートより安い部屋を探している。
「そこでだっ! 俺からの提案」急に声を張る直樹、ボリューム6。俺は隣の席のサラリーマンに軽く頭を下げる。
「俺は小説のネタにそのアパートを調査したい、お前は安いアパートに引っ越ししたい、利害の一致だな」
「お前は得しかしてねぇだろが」素早く突っ込む俺に、直樹も切り返す。
「調査費として半年分の家賃を俺が払う、それで何もなければそのまま住めばいい」
「何でそこまでする? おまえが住めばいいだけじゃねぇのか?」俺のごもっともの疑問に、目を見開き驚いた顔で応える。
「えっ? 何で? 嫌だよ、怖えーじゃん! 俺、呪われたくないもん」清々しい位の素直さ、昔からだがいい性格している。
「俺が呪われるのはいいってことか?」
「でも純哉、お前、呪いとかそういうの信じてないじゃん」
「そりゃそうだが、わざわざ変な噂がたっている場所に住むことはないよな」俺はそう言うと、この店自慢の焼き鳥を頬張り、奴の反応を待った。
どん! とテーブルを叩き、
「......分かった。半年後に取材費で五万円出す。それでどうだコラ! あっ? 貧乏人!」五本の指をおっ立てて、俺の顔の前までもってくる。
口の悪い男に向かって俺が言う。「あと、ここの払いもな」泣きそうな直樹の顔をしたり顔で眺め、俺はこの店で一番高い刺身の盛り合わせを注文した。
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