とてもつまらない物語

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 土曜日の朝七時、マンションの七階の一LDKの部屋のキッチンで、スズメの鳴く声を聞きながら、俺はグラスにビールを注ぐ。  輝く朝日が黄金の液体の入ったグラスに反射して眩しい。  こんな時間帯から酒を飲むという行為に、たとえ休日といえども背徳感に包まれる、なんてことを考えていたのは精々五年ほど前のことで、今の俺の精神は冷えたビールを注がれて結露し始めるグラスとは正反対に、実に乾いて淡々と二つ目のグラスにビールを注いでいた。  二つのグラスを持って居間に行く。  テーブルの上には、ポテトチップス、ポップコーン、チー鱈、さきいか、柿の種、ミックスナッツ、きのこの里、たけのこの山と、多種多様な菓子類がひしめく。  テーブルの下には、米、麦、芋と三種の焼酎に、梅酒に、追加のビールに、ウィスキー、水割り用のレモンサワーと炭酸水、日本酒、ワイン、ブランデー、とまるで居酒屋のような量のアルコール類が整列している。  そしてソファの上には、このマンションの五階に住んでいる会社の同期・三枝美津子が寝転がって仰向けの状態で、長ソファの端から頭を垂れるという、頭に血が上りそうな珍妙な姿勢でテレビの朝のニュースを見ていた。  三枝は今年で三十一歳になる女だが、上下スウェット、すっぴん、雑にヘアゴムでまとめた長髪と、とても魅力的とは言い難い格好で、毎週の土日に俺の部屋に来襲する。  俺が無言でビールのグラスをテーブルの三枝側に差し出すと、三枝もまた無言で起き上がり、流れるような動作で飲み始める。 俺は、三枝とテーブルを挟んで反対側の長ソファに座り、DVDプレイヤーのリモコンを手に取り、再生ボタンを押す。  プレイヤーのディスプレイに「PLAY」と表示され、三枝が予め挿入しておいたDVDが読み込まれて再生された。   ──
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