会社(の)事情(第一話)「そら、エライコッチャ!」 の話

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 私の秘密を暴いた女は、「キャハハーーーのキャ!」と転げ回らんばかりにひとしきり笑った。以後女が一方的に喋るようになり、デートのあいだ中女の雑談が「途切れる」事がなかった。女はこっちの寡黙という困難な問題を簡単に克服してくれたから、デートに際して私は何も事前に用意する必要がなくなった。  カンニングをせずに「正直に生きる」事を、七つ年下の女は私に教えた。なお女は序でにという風に、自分に都合がよいように徳川家康のこんな教訓も引いた: 「男は兎に角チャンスを作り、女を物にすることが大切よ。あまり厳しく選んでいると、チャンスをみすみす逃しかねないわ!」  本当に家康がそう言ったのか怪しいが、それでも教訓が私の背中を押して、そのまま今でも同じ女が私のそばに居座り続けている。女の言語能力は驚くほど発達していて百人力の雑談力を発揮しているのは、既に冒頭に述べた。 3.怖い!  つい脱線したが、話を戻す:  結婚して半世紀が経つ今でも配偶者のおしゃべりは治らない。それどこか、一層進化した。聞いていると、話はスーパーでの買い物の話から始まり、隣近所の悪口へと展開、次に安倍首相への同情、死んだ私の母親への恨みつらみまで延々と波及する。  お喋りには、私への親切なアドバイスもある: 「週一のゴミ出し」に対して、隣近所の不道徳な行為に対する仕返しの為もあるが、相手に知られずに隣家の中を覗く方法も教えてくれる。次いで、「A公園内の西はオヤジ狩りが盛んな場所だが、六十七でいい歳なんだから貴方はもうそんな狩りに参加するな」とかーーー、も含まれる。  果ては、会社の社員達に対する不平不満、会社が潰れそうになったら誰から順に首にするかまで、彼女の思い遣りの深いお喋りはこうして詳細に続く。  話はパノラマの如くキラキラと展開し、あっと言う間に結婚前に私がどんなウソをついたのかだって、昨日の事みたいに生々しく再現される。そんな時に、降り掛かる火の粉を払おうと思って、「そうだったかなあ?」なんて空とぼけた相槌を打つと、どえらい目に遭う。  女は昔の悔しさに自己陶酔しているから、物凄い形相で睨みつけ、今にも離婚を宣告しそうな剣幕になる。当初のスーパーの買い物の話が、どうして離婚問題へ繋がるのか、プロセスが簡単には判らない。女の記憶力は凄いを通り越して、怖い。
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