会社(の)事情(第一話)「そら、エライコッチャ!」 の話

4/11
前へ
/661ページ
次へ
4.男の寡黙  結婚したてで、私が女のおしゃべりに未だ不慣れな昔の失敗談: 配偶者が一つの話題でしゃべり始め、それが無期限に続く気配を見せた時に、私は何とかしてそれを止めさせようとしたものである。相槌を打ちながらも、もっと短時間に終了しそうな別の話題へと誘導を試みたのだ。しかし、この作戦は大概失敗した。  なぜなら、先の話題は既に八割方まで済んで終了間際だったのに、不慣れなこっちは見分け方が判らず、新しい話題を提供した形になってしまうからだ。また勢いを盛り返して再スタートを切るから、おしゃべりは予定の一・八倍にはなってしまう。  このように相槌の打ち方一つ間違えると、女の話は延々と古代から未来へと流れ、じっと聴いているこっちの体のあちこちに蜘蛛の巣が張り始める。私が年より風化してみえるとよく人に言われるのは、蜘蛛の巣のせいなのだ。ついには苔が生えたとまでは言わないが、困る時もある。しかも、先の例の通り、彼女のおしゃべりが、毎回それほど高邁な精神を語っているようには思えないからだ。  女に比べて、一般に男は口の重い人が多い。 口数の少ないのは、人類進化の歴史が関係していると本で読んだ事がある。太古の昔、マンモス狩りが主たる任務だったから、大声でしゃべっていては獲物を取り逃がしてしまう。  寡黙だからと言って、男が女よりも上等な訳ではない。確かな事が一つある、断じて下等で獣(けだもの)だという事実だ。というのも、聞いているのは殆ど上の空だが、女のおしゃべりの最中に男が考えているのはーーー:
/661ページ

最初のコメントを投稿しよう!

15人が本棚に入れています
本棚に追加