第一夜

3/4
前へ
/42ページ
次へ
水が足に絡(から)まり、中々前へと進めない。先程から曾祖母は何かを云っているようだが、何を云っているのかは未だ聞こえない。聞き取ろうと更に足を前に進める。 曾祖母は慌てているようだ。何かに追われているのだろうか。それとも何か私に用があるのだろうか。解らないままだが、進むしかないと思い込んでいる私は曾祖母の方へ歩いて往く。 妙に水が重く感じる。中々足が前へ出ない。このまま進めなければ、何かとんでもないことが起こるような気がして、水を蹴る様にして、どうにかこうにか川の半分辺りまで辿り着いた私は、曾祖母の様子を見ようと目を凝らす。よくよく見なければ解らないが、どうやら曾祖母の近くには誰かが居るらしい。その誰かからの助けを求めているのだろうか、若しくはその誰かを助けようとして人手を必要としているのであろうか。声はまだ届かない。 「曾婆さん(ひいばあさん)大丈夫かい?」 私は声を張り上げるが、私の声も届いているかどうか怪しい。曾祖母の声は段々近付いてくるように感じるものの、まだ判然としない。好(い)い加減、声くらい届きそうなものだが……私は不思議に思いながらも猶以て(なおもって)水の中を進んでいくどうにか足が着くくらいの深さに差し掛かったが、それでもやはり泳いで体力を消耗するよりは、一歩一歩前進したほうが好い様に感じたので、泳ぐのではなく、歩いて彼岸を目指す。これ以上深くはならないだろうという部分に差し掛かった時、やっと曾祖母の声がはっきりとした意味を持って聞こえた。
/42ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5人が本棚に入れています
本棚に追加