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「誰もこない……か」
一人呟いた時だ。カウベルの音がして瑠美は振り返る。
「いらっしゃいませ」
「いつものお願いします」
瑠美と同じ歳の男性客。以前、話をした時に同じ歳だと盛り上がったことを思い出す。
「かしこまりました」
彼も常連客の一人。
いつも通り、カウンターの隅に座った。瑠美も厨房に入り、働きながら彼を見つめる。
短髪は乱れがなく、着ているスーツにもシワがない。
脱いだジャケットを隣の椅子に掛けると、すぐにカバンの中を探り始める。営業をしているからなのか、カバンはいつも重そうだ。
やっと見つけ出したのは文庫本。
注文した料理がくるまでの間、彼はいつも読書をする。名前も知らない常連客だが、瑠美は長い間見てきたからわかっていた。
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