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「ねぇ、慎司さん......もう止めよう」
舞はうつむき、声をだす。掌がしっとりと汗をかいた。
「ん、どうしたの? ──舞ちゃん?」
「もう、止めようよ......、健太郎もお姉ちゃんも、もういないんだよ」
今度は慎司の目を真っ直ぐに見つめた。
「ちょ、ちょっと舞ちゃん──」
慎司さんはマネキンを気にする態度で、人差し指を自分の口にあて私に向ける。
「何を言ってるの、舞ちゃん、ほら紗英も困っているよ、変な冗談はやめ──」
慎司さんが喋るのを遮り、私は続ける。
「一年前の事故でふたりとも亡くなったじゃない......」
過去を思いだし、わたしの目に涙が溢れる。
「これは......お姉ちゃん達じゃない」
「ヤメロ、......紗英が泣いている──」
慎司さんの声は、怒りだろうか? 震えている。
しかし、ここで黙るわけにはいかない、私は意を決して続けた。
「これは! ただのにんぎょ──ごふっ」
言い終わるまえに喉に痛みが走った。涙で霞む目が見たもの──突きだした慎司さんの腕がみるみると赤く染まっていく。
カクンと頭が下がりテーブルに目がいくとケーキカット用のナイフがなくなっていた。
なんとか声を出そうとするが、ナイフが刺さった喉はひゅうひゅうと虚しく鳴るだけだ、やがて、あぶく混じりの血を吐血し、私は崩れ落ちた。
血に染まった顔をタオルで拭い、慎司は席に着いた。
「騒がしくしてすまなかったね、紗英」
血だらけの手でろうそくに火を付ける。
「今日から、舞ちゃんも一緒に暮らすことになったよ、──楽しくなるね」
三本のろうそくに火が点る。
「さあ、誕生日会を続けよう」
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