新生児教材人形

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芹沢慎司は心に決めた──。  妻、紗英の奇行に一生つきあっていくと。 一年前の悪夢。 その日は息子、健太郎の二歳の誕生日を妻、紗英の実家で祝おうと車を走らせた。 前日、徹夜で仕事をした俺に変わってハンドルは紗英が握っていた。 近道の山道を通り、急カーブを右に曲がる直前、対向車がセンターラインを大きく割って入ってきた。そのまま接触。 外側を走行していた俺達の車はガードレールを突き破り数メートル先に落下した──。 その時の事故で、俺たち夫婦はひとり息子の健太郎を亡くしていた。  紗英はその日から少し変わってしまった。  事故以来、紗英は言葉を話せなくなってしまったのだ。本で調べたところ心因性失声症だと思われた。 それと同時に、出産前、母親教室で使用していた新生児教材人形を、息子、健太郎だと思うようになってしまった。  食事、排泄、入浴の世話は勿論人と同じように扱い、外に買い物に行く時もベビーカーに乗せ、俺達三人で出かける。 そんな俺達夫婦を世間は白い目で見たり、時には気持ち悪いだとか口にする者もいる。だが、それが何だと言うのだ。  これで、少しでも紗英の傷が癒えるのならば、世の中にどう見られようと俺には関係なかった。
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