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「やあ舞ちゃん、よく来てくれた」
姉に紹介されて初めて会った頃にくらべて大分痩せた。元々スマートな体型だっただけに──今は病人のそれを思わせる。
「慎司さん、お久しぶりです、今日はお招き頂きありがとう」
手土産の白ワインを渡しつつ、軽く挨拶した。
「こちらこそ、来てくれてありがとう。さあ、入って、入って」
玄関で靴を脱ぎ、揃えてる背後で慎司さんが、「おーい、舞ちゃん来てくれたぞぉ」とリビングに向け声をかける。
用意されたスリッパをつっかけ、慎司さんに続きリビングに入った。
部屋の中はいかにも誕生日会といった様子。
折り紙で作った輪っかの装飾品、テーブルの上に様々な料理。湯気のたつ唐揚げや、ちらし寿司、バースデーケーキ。
そして──誕生日席に座らされている赤ちゃんの人形。
その人形と対面するように座らされた女性のマネキン。
「さあ、舞ちゃんも座って、誕生日会を始めよう!」
人形とマネキンを相手に、楽しそうにお喋りを始めた慎司さんを眺めながら、舞は思い出していた。
一年前の事故でお姉ちゃんと健太郎を亡くした慎司さん──それはもう大変な哀しみようだった。
毎日の慟哭、お酒に溺れる日々、目を離すと自殺するのではないかと常に心配だった。
ある日、仕事を終えていつもの様に慎司の様子を見に来た舞が目にしたもの。それは──マネキンを紗英と呼び、それを相手に一人で喋り続ける慎司の姿だった。
服飾のデザインを仕事にしている慎司の部屋に置かれたマネキン。慎司さんはそれをお姉ちゃんにしてしまった。
そうなってからは、俺がしっかりしなくてはと、以前の慎司さんを取り戻していった。
すると、今度はお姉ちゃんの悲しみを癒すために自分の中で現実を書き換え、新生児教材人形──健太郎が出来上がった。
ただ、それで慎司さんの精神が安定して落ち着くのであれば悪いことではないと私は思った。
それでもやはり、人形達を相手に生活をする慎司さんを少し恐いと思ってしまい、家に様子を見に行く回数も減っていった。
先々週頃だろうか、街で偶然、慎司さんを見かけた。
ベビーカーに赤ちゃんの人形を乗せて、脇には女性のマネキン。ひとりで喋りながら楽しそうに笑っていた。
慎司さんの気持ちは痛いほど分かる──でもこれじゃあだめだ。
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