序章

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   男は黒い着流しを(はだ)けたまま、静かに少女を見上げていた。  露出した胸元には墨で描いたような黒い印があり、その形は星に近く、五芒星(ごぼうせい)を思わせる。  刀の切っ先はその印の中心――男の心臓に向けられていた。  辺りを照らすのは、松明(たいまつ)に灯された頼りのない火だけだった。  影の差す部屋の隅には、白装束を着た大人たちが息を殺すようにして正座している。  彼らに見つめられる中、『凛』と呼ばれた少女は刀を構え、浅い呼吸を繰り返す。 「……どうした、凛ちゃん。今さら怖気づいたのか?」  不意に、仰向けの男が聞いた。  やけに明るい声だった。  少女は何も答えず、柄を握る手を震わせて、今にも泣き出しそうな哀しい顔をする。  
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