第一章 出会う

3/3
前へ
/3ページ
次へ
音も無く、只鮮やかに血が飛沫く。 此のビルヂングに侵入してから、もう何人を斬殺しただろうか。殺した人数を数える趣味は無いが、既に二十は超えて居るだろう。 一人、又一人と、名も知らぬ敵の命が消えて逝く。 在る者は首を掻き斬られ、在る者は背を斬られ、又在る者は心の臓を一突きにされ………。 嗚呼、儚い。 気付くと私は薄暗いビルヂングの地下に来て居た。自分の物では無い、生温い人の息遣いを感じた。此の扉の向こうには人が居るのだ。 だとすれば、気配が全く消えていないのは何故なのか。 気を抜く事無く扉を押し開くと、 「……?!」 少女が、居た。 少女と云うには大人びて居るが、女性と云うにはまだあどけない。そんな姿だ。 ぐったりと頭を垂れ、持ち上げられた両手首には鎖と手錠が嵌められており、左手首の手錠だけはかなり大仰な仕掛けに成っていた。 身に纏っているのは、ぼろぼろに成った布切れ同然の汚れた物。明らかに服の採寸が合っておらず、一回りの余裕が有る様だった。 あたかも死んでいるかの様に、微動だにしない。 「…………童……。」 試しに声を掛けて見る。 反応は無い。 もう一度云う。 「如何したのだ。」 今度も反応は無い。 只、刀から血の滴り落ちる音だけが響く。 矢張りもう死んで居るのか、そう思った瞬間。 少女の指先が、微かに動いた。 「…っ_______ぅ、あ……」 重たい様に頭を持ち上げ、目を開くと、小さく声を発した。 「……だ、れ………ですか……?」 とても弱々しい声だった。助けを求める訳でも、恐れを示す訳でも無い純真さ。 「………小泉雪路。」 私は素直に答えた。 「雪路、さん………。」 「御前の名は?」 噛み締める様に復唱した少女に名を問う。 すると少女は、危なっかしく力の無い声で答えた。 「時任、誠……。」
/3ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加