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音も無く、只鮮やかに血が飛沫く。
此のビルヂングに侵入してから、もう何人を斬殺しただろうか。殺した人数を数える趣味は無いが、既に二十は超えて居るだろう。
一人、又一人と、名も知らぬ敵の命が消えて逝く。
在る者は首を掻き斬られ、在る者は背を斬られ、又在る者は心の臓を一突きにされ………。
嗚呼、儚い。
気付くと私は薄暗いビルヂングの地下に来て居た。自分の物では無い、生温い人の息遣いを感じた。此の扉の向こうには人が居るのだ。
だとすれば、気配が全く消えていないのは何故なのか。
気を抜く事無く扉を押し開くと、
「……?!」
少女が、居た。
少女と云うには大人びて居るが、女性と云うにはまだあどけない。そんな姿だ。
ぐったりと頭を垂れ、持ち上げられた両手首には鎖と手錠が嵌められており、左手首の手錠だけはかなり大仰な仕掛けに成っていた。
身に纏っているのは、ぼろぼろに成った布切れ同然の汚れた物。明らかに服の採寸が合っておらず、一回りの余裕が有る様だった。
あたかも死んでいるかの様に、微動だにしない。
「…………童……。」
試しに声を掛けて見る。
反応は無い。
もう一度云う。
「如何したのだ。」
今度も反応は無い。
只、刀から血の滴り落ちる音だけが響く。
矢張りもう死んで居るのか、そう思った瞬間。
少女の指先が、微かに動いた。
「…っ_______ぅ、あ……」
重たい様に頭を持ち上げ、目を開くと、小さく声を発した。
「……だ、れ………ですか……?」
とても弱々しい声だった。助けを求める訳でも、恐れを示す訳でも無い純真さ。
「………小泉雪路。」
私は素直に答えた。
「雪路、さん………。」
「御前の名は?」
噛み締める様に復唱した少女に名を問う。
すると少女は、危なっかしく力の無い声で答えた。
「時任、誠……。」
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