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棗はため息をこぼし、温めた器にシチューを注ぐ。
崩れて不格好なじゃがいもの群れが鍋の底に沈んでいた。
料理なんてほとんど作ったこともないのに、まずそうなシチューを見て喜ぶ男の姿を目の当たりにすると、まったく相手にされていないのだと思い知る。
きっと大きな子どもができたとでも思っているのだろう。男はことあるごとに「うちの子は可愛い。うちの子は最高」と宣うのである。
それでも傍にいられるなら構わないと思っていた。
彼に忘れられない女性がいることを知るまでは。
「うまいぞ棗。上手に作ったなあ」
「……るせー。黙って食え」
溺れたじゃがいもを救っては飲み込む鬼畜をギロリと睨めつけた。
自分もそのじゃがいもと同じだ。
いや、彼の一部になれるだけじゃがいもの方が幸せかもしれない。
「先生花丸あげちゃう」
「だから黙って食え!]
夜食に近い夕飯を済ませると、風呂に入り、同じベッドで眠った。
ルーチンするだけの健全な生活を彼はどう捉えているのだろう。
ほとんど義務に近いことは確かだ。
ベッドの中考え込む棗を後ろから抱きしめ、男がじゃれつくように項を甘噛みした。
「……最近発情期来てないな。匂いも薄いし」
「あ、ああ、番ができたら落ち着くヤツもいるらしいし、それなんじゃね?」
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