本編

7/13

845人が本棚に入れています
本棚に追加
/23ページ
「別に怖くねえし。でも、アンタ以外のαは嫌いだ」 「……あらま、オジサン慕われるのは嬉しいけど心配だなあ」 「あ、オッサンって認めた」  くっと笑いを噛み殺した瞬間、くしゃくしゃに髪を掻き混ぜられた。 安心できる大きな手。唯一信じられるα。 卒業したらもう会えなくなるなんて耐えられない。 「アンタみたいなαとなら番になってもいい」  大人しく撫でられながら目を細めると、和巳に額をベチンと叩かれた。 「……心配すぎる。とにかくいつ来てもおかしくないから、抑制剤は携帯するように。万が一の時は這ってでもここに来なさい」 「ん」  離れていった手が名残惜しくて自分で額を撫でる。 体が熱い。 湧き上がる反応を誤魔化そうと腰を上げた瞬間、足元が揺れた。 気のせいだろうか。 窓辺に立つとスチール枠の向こうで体育に励む学生たちの姿が見えた。 「若者たちは元気だな」  ひょいと後ろから覗き込んだ和巳がおどけて言う。 なんでもない一言なのに、年齢の違いを突きつけられたようで胸が軋む。  おかしい。感情の波が不安定で上手くコントロールできない。 動悸が激しくなり、体の中でぶわりと熱が膨れあがる。 棗は胸元を握りしめ、その場にずるずる崩れ落ちた。 「岩佐!? おい、大丈夫か!?」
/23ページ

最初のコメントを投稿しよう!

845人が本棚に入れています
本棚に追加