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縋り付いて懇願すると、彼は険しい顔で棗を抱き上げ、ベッドに放った。
一回り体格の大きな男に組み敷かれた棗は、ぐずぐずに蕩かされ、感じるままに啼いた。
お願いだから項を噛んでくれ。
奥を穿つ熱に翻弄され、何度も何度もうわ言のように繰り返すと、フェロモンに屈した和巳は請われるまま棗の項を噛んだ。
Ωの強烈なフェロモンは意志を無視して強制的にαを従わせてしまう。
嵐のような情事を終え、冷静な頭で己のズルさを反省していると「責任はとるから、岩佐はなにも心配するな」と真面目に告げられ首を傾げた。
無理やり番うことを強要された人間に、責任もなにもあったものではない。
気に入らなければαは番を解消できる。
どうせ他のαに興味はない棗だ。
番を解消したせいで一生恋愛ができなくなったって構わない。
そう覚悟していたのに、和巳は棗の卒業を機に同居を申し出たのだった。
***
スペアキーは下駄箱の上。
いらなくなった雑誌はまとめて上がり框へ。
最低限の荷物をバッグに詰め込んだ棗は、振り返って家中を見渡した。
和巳と暮らした一年は夢みたいで、夢でしかない一年だった。
家主が帰宅するのを待ち構えていた棗は、玄関先で「俺この家出てくわ」と告げた。
驚いた和巳が反射的に棗の腕を掴む。
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