本編

9/13
前へ
/23ページ
次へ
 縋り付いて懇願すると、彼は険しい顔で棗を抱き上げ、ベッドに放った。  一回り体格の大きな男に組み敷かれた棗は、ぐずぐずに蕩かされ、感じるままに啼いた。 お願いだから項を噛んでくれ。 奥を穿つ熱に翻弄され、何度も何度もうわ言のように繰り返すと、フェロモンに屈した和巳は請われるまま棗の項を噛んだ。  Ωの強烈なフェロモンは意志を無視して強制的にαを従わせてしまう。 嵐のような情事を終え、冷静な頭で己のズルさを反省していると「責任はとるから、岩佐はなにも心配するな」と真面目に告げられ首を傾げた。  無理やり番うことを強要された人間に、責任もなにもあったものではない。 気に入らなければαは番を解消できる。 どうせ他のαに興味はない棗だ。 番を解消したせいで一生恋愛ができなくなったって構わない。  そう覚悟していたのに、和巳は棗の卒業を機に同居を申し出たのだった。 ***  スペアキーは下駄箱の上。 いらなくなった雑誌はまとめて上がり框へ。 最低限の荷物をバッグに詰め込んだ棗は、振り返って家中を見渡した。 和巳と暮らした一年は夢みたいで、夢でしかない一年だった。  家主が帰宅するのを待ち構えていた棗は、玄関先で「俺この家出てくわ」と告げた。 驚いた和巳が反射的に棗の腕を掴む。
/23ページ

最初のコメントを投稿しよう!

847人が本棚に入れています
本棚に追加