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「夢であいつに刺されたんだ」
「……だからどうした」
あいつとは前の彼女のことだろう。夢で刺されたからなんだというのだ。実際に刺されたのなら大変なことだけれども。
「刺されたのは、八月十日の二十一時四分だった。場所はおれのアパートの部屋で」
「……ていう夢なんだろ。今日は七月八日だから、だいたいひと月後ってことか。ずいぶんと細かいとこまで設定されてるな、その夢」
日付ならまだしもありそうだが、時間が、それも分刻みで夢に現れるなんて珍しいのではないだろうか。
「刺される前に、夢の中で携帯をいじってたんだ。それで日付と時刻を覚えてた」
なるほどと遼哉は納得した。
「刺されて、おれは死んだんだ」
「死んだのか」
「ああ。死んだ。腹から血がどくどく流れて、おれはこれで死ぬんだなと思って、そのまま意識が薄れていった。気が付いたら朝だった」
「死んでないじゃん」
遼哉にとってはどうでもいいことだ。から揚げ定食はすべて食べ終わった。好きな女ができて前の彼女をポイっと捨てた罪悪感が心のどこかに残っていたのだろう。疚(やま)しさの生んだ夢だ。こんな龍でも、根っからの極悪人ではないという証拠だ。
「正夢になると思う」
強張った表情で龍が言った。真剣な口調だ。
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