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カナコの脇を自転車が通り過ぎていく。
その自転車が「加藤」と一声かけたようだ。
随分先を走っていた彼が振り返る。
カナコの心の中に、彼の名前が響いた。
───そうか、加藤というのか。
自転車はあっという間に加藤に追い付くと、自転車をおりてしまった。
二人は何かしら話して、不意にこちらに手を振る。
雨に霞んで表情までは見えなかったが、カナコは太陽の光を感じた。
だから、傘の匂いも何となく理解できた。
甘い甘いドロップみたいに、心の中に溶けていく───
姉が記憶の中で歌っている。
カナコの唇は合わせるように踊る。
雨音がオーケストラみたいにカナコを包んだ。
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