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朝早いバスに揺られ、少し余裕のある座席に身を沈め、カナコはぼんやり流れる風景を眺めていた。 通勤通学ラッシュの、あのざわめきに頭痛を感じるようになってから、30分早く家を出るようにしていた。 うっすら桃色のリップを載せた唇が、つやつやと躍る。 カナコはある歌を歌っていた。 声は出さずに頭のなかで。 誰の歌か、恐らく彼女の年代ではかなりマイナーなアーティストで、一つの恋をドロップに例えたような、甘い甘い恋の歌。 遠方に嫁いでいったカナコの姉が、いつも聞いていた曲だ。 姉がこの歌のような甘い恋をしたのか、わからないまま、カナコの頭にこびりついて離れなくなった。
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