1人が本棚に入れています
本棚に追加
朝早いバスに揺られ、少し余裕のある座席に身を沈め、カナコはぼんやり流れる風景を眺めていた。
通勤通学ラッシュの、あのざわめきに頭痛を感じるようになってから、30分早く家を出るようにしていた。
うっすら桃色のリップを載せた唇が、つやつやと躍る。
カナコはある歌を歌っていた。
声は出さずに頭のなかで。
誰の歌か、恐らく彼女の年代ではかなりマイナーなアーティストで、一つの恋をドロップに例えたような、甘い甘い恋の歌。
遠方に嫁いでいったカナコの姉が、いつも聞いていた曲だ。
姉がこの歌のような甘い恋をしたのか、わからないまま、カナコの頭にこびりついて離れなくなった。
最初のコメントを投稿しよう!